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僕が通う大学には、クロと呼ばれる青年が居る。
僕とは一つ歳が違う。だけど不思議と馬が合って、僕とクロは親友というポジションに落ち着いている。
クロは俗に言う変わり者だ。突飛な行動が多くて、飄々とした態度で真意が見えなくて、人当たりはいいがたぶんそんなに人が好きではない。
そしてなにより、彼の目に映る世界は、僕達と少しだけ違っている。
そんな彼は今、共通の友人である竜さんとともに、もそもそと昼食を口に詰め込んでいるところだった。
「はああ? また変なアパートを引き当てたの?」
藁にもすがる思いで悩みを打ち明けると、クロは露骨に嫌そうな顔をした。無理もない。ここ数ヶ月、なにかしらのトラブルに巻き込まれては引っ越しを繰り返しているのだから。
それも、生者と死者の違いはあれど、全て女性絡みというありさまだ。
「……確か、前回は天井裏に女が潜んでたんじゃなかったか?」
竜さんが緑茶をすすりながら訊けば、僕より先にクロが肯定する。
「そうだよ、それで警察沙汰になったんだ。なのにまた厄介事に巻き込まれたの? だから家賃が安すぎるところはやめとけって言ったのに」
「し、仕方ないだろ……。引っ越ししすぎて貯金が足りないんだ……」
情けない僕の言葉に、クロだけでなく竜さんまで呆れたようだった。
昼時の学食は混雑していて、生徒達のざわめきで埋め尽くされていたが、僕は少しでも他人に聞かれないように声を潜める。
「本当に困ってるんだよ。もう怖くて怖くて、家に帰るのも憂鬱なんだ」
「それで僕になんとかしてほしいって? 何度も言ってるけど、僕は拝み屋でもなんでもないんだよ」
クロはつっけんどんにそう返す。新しい住処を見付けるたびにトラブルに見舞われて彼に泣きついているのだから、嫌がられるのも無理はない。だがこちらも死活問題、引き下がるわけにはいかなかった。
こうなったら背に腹は代えられないと、僕は覚悟を決めて奥の手を使う。
「……どうしてもだめかい?」
巧妙に上目遣いをすれば、う、とクロが呻く。彼が泣き落としに弱いのは、この一年でよく理解していた。
うるうる。そんな効果音が似合いそうなほどの悲しい顔でクロを見詰めれば、彼は心底悔しそうに唇を噛みしめる。
「顔が良いんだよなぁ……!」
「いや、こいつがどうこうっていうよりお前がチョロすぎんだよ」
そんな竜さんの冷静なツッコミも聞こえていないようで、クロはやけくそで僕の相談を引き受けてくれるのだった。
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