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「ああ、今のはさすがにビックリしたなぁ」
たいして驚いてもいなさそうな態度で、クロは起き上がる。
「シロさん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……。本気で寿命が縮んだかと思った……」
「まあまあ、元気出して。これでもうあの女は出てこないと思うよ」
クロが雑に慰めてくるが、残念ながら僕の気が晴れることはなかった。
「もうこの家に住んでいられない……」
「どうして? もう安全なのに」
「たとえもう現れなくても、あんなのを見てしまったらもう落ち着いて過ごせないよ。毎晩夢に出てきそうだ……」
今すぐここから出ていきたい。でも引っ越すための金はない。憂鬱な気持ちのままうじうじとしていると、クロはなにやら考え込んで、それからいいことを思いついたとばかりに提案してくる。
「じゃあ、僕の家においでよ」
「え?」
「住むところがないんでしょ? じゃあ僕とルームシェアでもしようよ」
「い、いいのかい!?」
思わず飛びつけば、クロは勿論だと胸を叩く。
「その代わりうちの店を手伝ってよ。新しいバイト先も探してるんでしょ?」
渡りに船とはこのことか。このときばかりはクロが救世主に見えた。
確かに、クロと一緒に暮らしてみるのも楽しいかもしれない。それにトラブル──特に幽霊関係のものに巻き込まれたときには、とても頼りになる存在だ。ぜひお願いしますと頼み込めば、クロは心底嬉しそうに承諾してくれる。
「じゃあ、そういうことで。後で荷物を運ぶのを手伝ってあげる」
「ああ、ありがとう」
食い気味で返事をすれば、クロは喜びすぎだと苦笑いする。気心知れた友人と共同生活を送るのは初めてのことで、わくわくしてしまっていたのだから仕方ない。
だけどその興奮も、あるものに気付いて一気に冷めてしまった。
「……あ、あの、クロさん……? その手に持っているのはなんですか……?」
わなわなと震えながら、僕はクロの手に握られているものを指差す。
それは間違いなく、畳の下から見付けたあの女の人形だったのだ。
「ああ、これ? どうやら彼女、男の人形だけ欲しかったみたいなんだよね」
僕の動揺をよそに、クロはマイペースに人形をつつく。この時点で嫌な予感がしていたが、僕は僅かな希望を頼りに尋ねた。
「……念のために訊くけれど、それをどうするおつもりで……?」
顔を引きつらせる僕に、クロはにっこりと笑って答える。
「決まってるでしょ。僕の家に持ち帰るんだよ」
そうだった。この友人にはある悪癖があったのだ。
いわくつきのガラクタを収集して売るという、僕には理解できない趣味が。
無残にも希望を打ち砕かれ、早くも同居生活を後悔し始める僕の前で。
ガラクタ売りの友人は、ご機嫌な様子で鼻歌を響かせるのだった。
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