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「ソフィー、ソフィア」  いつもジェームズは私の名を呼ぶ第一声をこのように言う。まるで私のご機嫌取りをしているみたいに。  「知性」としてのこの名前を慈しみをこめて呼んでくれる男は彼が初めてだった。私の自尊心はくすぐられる。これがジェームズの手だとしたら、彼はそうとうの遣りてだ。どこかで男一般を見下していた私が、彼にだけは目を伏せがちになっていることに自分でも気づいていた。それは初めて知る恥じらい、甘美な苦み。 「ソフィー、君は僕の両親と会ってくれる気はあるかな」  慌てて目線を上げると、ジェームズの端正な顔の優しい目が一滴くの不安を湛えて私を見ている。私は思いがけず困惑の色を浮かべてしまったようだ。ジェームズの顔が曇った。 「ごめんなさい」  小声で私は言う。 「それは完全なNO?」  彼の問いに私は答えてしまう。 「いいえ、でも」 「まだ早すぎるということ?」 「……ええ」  私は小さな嘘をついた。  いいえ、彼の身からしたら、それは大きすぎる嘘なのだ。 「さすが、ソフィアだよ」  彼は気を取りなおして滲むように笑った。
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