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 アート好きの留学生アーニャと行ったある集いで彼に初めて会った。アーニャはロシアからの留学生で、独特のプライドがあったが、私とは気が合った。  何人かのスピーチの後、立食パーティとなった。アーニャはスピーチをした人間に積極的に、かなり流暢な英語で話しかけている。きちんとイギリス英語が話せるのがアーニャだ。彼女は頭がいい。  アートは嫌いじゃないけど、さほど詳しいわけでもない私はつかの間一人になってしまった。そのとき、傍らに東洋人と話している彼を見かけた。私は彼の独特の風貌に目を奪われた。唇が厚く目じりが垂れて顔の形も歪んでいる。醜いと言っていい顔だが、個性的だった。  彼の話はたどたどしかった。その理由は吃音であることに、すぐに私は気づいた。  後で分かったことだが、あの東洋人の男性は日本人で、「ウタマロ」の話を熱心にしていたところだった。  東洋人が別の誰かに呼ばれて去ったとき、彼、ヒースクリフはこちらを見た。  彼は、私を見て口を歪めた。何か力が抜け去ったかのように。
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