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 すぐにわかったことだが、彼は私に一目ぼれをしたのだ。私は一目ぼれされるのに慣れている。でも、彼の場合は勝手が違った。彼は――驚いたことに、いきなり私の手を握ったのだ。 「お目にかかれて、僕は幸せです」  何が幸せなのか。今思い出してもくくっと笑いがこみ上げる。私はグラスのウィスキーを傾けた。さっきから体がこわばって、息抜きがしたくてたまらない。今私は彼の絵のモデルをしている。 「な、何がおかしいの」  ヒースクリフが不思議そうに尋ねた。私はわざとウィスキーをゆっくりと味わってから、答える。 「あなたと初めて会った日のことを思い出していたの」  ヒースクリフは赤くなる。はにかんでいるのだ。彼はピュアだ。その個性的で醜いとさえいえる顔でさえも、いっさいの邪気を含まない。 「驚いたよ」 「驚いたのは私のほうよ」 「やっと……僕のミューズを見た、と」 「ばからしい」  私は吐き捨てるように言った。
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