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 ディアナは女神だ。着ているものは貧しいけれど、豊かな髪は陽に透けると神々しい。赤みがかった栗色。金の縁どりができる。  そんなディアナは朝遅く起き出して、炊事場で鍋にじゃがいもを並べ水を注ぎ火にかける。彼女の茹で加減は固めで僕の好みだ。もう少ししたら、ほくほくのじゃがいもに褐色の塩を振って朝食だ。  僕はただ食べさせてもらっているわけではない。食事の後の水洗いは僕の仕事だ。なるべくディアナのきれいな手を荒らしたくないから、水仕事や力仕事は僕がやることにしている。  森の近くの掘っ立て小屋のような家で、僕は屋根裏を見たことがない。そこには入らないように言われている。屋根裏には外の梯子から入れることを知っているけれど、僕は言いつけ通り行かない。こっそり登ってみたこともない。ディアナの言うことは絶対だ。ディアナは命の恩人だもの。  こんな辺境の土地では、僕は一人では生きながらえなかっただろう。  今頃は、僕自身が墓の中にいたはずだ。  多くの、大きかったり小さかったりした死者たちと同様に。  
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