海底のわたしへ

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海近くに置かれた若干不安定なベンチに腰をかた。良くも悪くも変わらない海の景観に身を委ね、海水の戯れる音を耳に流す。 あんなに毛嫌いしていた女性ものの水着をもう何度身につけたんだろう。自分の身体から薫る女の子らしい甘い香りのする香水と、海の潮の匂いが混じりあって変な匂いが鼻を掠める。 遠くの方で男女が身を寄せ合って海を眺めているのが目に入った。そういえば一昨日から彼氏に連絡を返していないことに、ようやく気付く。可愛らしいハンドバックに包まれた携帯電話を取り、メールを打ち込もうとフォルダを開こうとした時だった。 「あれ、白鳥?」 低く、重く、柔い声が右の耳から入る。 右方向を向けば、幼い頃電車内で見かけたポスターの様な顔立ちをする男性がこちらを見ていた。 その顔から、何か懐かしい面影を感じとる。 そうだ、今日これから会うメンバーのひとり。 「横田くんじゃん、久しぶり」 「やっぱ白鳥か!うわ、大人になったな」 「いや、そっちこそ」 横田 修斗くん。 中学のサッカー部エースで、勉強もいつもクラス1位の完璧ボーイ。常に彼女が絶えなくて、モテモテだった記憶がある。当時の私は女性から魅力的に思われる事が男性らしさを想像させていたから、横田くんの事をどこか恨めしく思っていたことだけは鮮明に覚えている。
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