彼は修理屋さん

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「じいじ、ポコたんなおる?」  ユウリはボロボロになったぬいぐるみを持ってきた。ボタンでできた目玉が一つなく、足の縫い目からは綿が出てしまっている。 「あのね、猫が持って行こうとしたの。私取り返そうとして引っ張っちゃったの」  しゅんとするユウリの頭を優しく撫でて彼は笑う。 「助けてくれてありがとうって言ってるよ、大丈夫だ」  彼は道具箱を開ける。中には数十種類のボタンが入っていて、ぬいぐるみと同じ目のボタンを取り出すと手早く取り付けた。足も一度糸を少し切って綿を詰めるとあっという間に縫い合わせる。 「ほら、もう元気だよ」 「わあ、ありがとう! 今日も、シュッセバライっていうのでいいの? 私、お金持ってきたよ」  ユウリは五百円を差し出した。前に別のぬいぐるみの耳が取れてしまった時も出世払いだと言われた。 「それは今ユウリの持ってるお小遣いの半分だろう? もっとお金持ちになったらよろしく頼むよ」 「うん。絶対忘れないよ」  ユウリは人形にすりすりと頬ずりをして店を出た。  使えない、つまらない、古臭くてダサイ。そんな事を言って人は簡単に物を捨てる。直せば使えるのに、買った方が早いからと。 「ああ、何でこんなに馬鹿なの!? 他のママ友に今日も馬鹿にされたでしょ! 何でもっと勉強できないの! 問題集2冊やるまでご飯なし!」 「ごめんなさいじゃねえんだよ、ギャーギャーうるせえガキだな! 俺はもともとガキなんざほしくなかったんだよ! なのにあのクソが欲しいっつーから作ってやっただけだ!」 「子供なんかいなければいいのに……私の時間潰れるばっかり。昔はもっと楽しかった、買い物行きたい、美味しいもの食べたい、家事なんてしたくない」  もっと優秀な子供が欲しい。頭が良くて言うことを聞いて口答えしなくてほっといても自分で食事も家事も全部できて顔が良くてスポーツも芸術もみんなみんなみんな優秀で人から羨ましがられる、そんな子供。  道具や仕組みがどれだけ良くなって生活が豊かになっても、豊かにならないのは人間だけ。
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