彼は修理屋さん

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「失礼しますドクター」 「店ではその呼び方はやめてくれ」 「すみません。しかし、すぐに移植手術をやってほしいという患者がいまして」 「そうか。地下に運んでくれ」  物を大切にしない、心無い大人がはびこって優しい子供たちが淘汰される。本当にそんな馬鹿な法律ができたと思っている連中は多い。そんなわけない。 『問題があると判断された子供を持つ親はアンドロイドに性格を移植して理想の我が子を手に入れることができる。生身の肉体の方は、移植手術の負荷に耐えられずに死んでしまう』 子供が移植対象、なんて一言もいっていない。 問題があると判断された、子供を持つ「親」はアンドロイドに性格を移植するとちゃんと書いてある。  子供を大切に、物を大切にする正しい大人が増えれば子供たちは心が豊かになる。一人の天才ドクターが考えた人格移植手術は国に承認され、子供を持つ親のみ適用される。  承認された理由は簡単だ。記憶も性格も癖も長年培った専門技術まで完璧に移植されたアンドロイドが、こうして今もその技術を受け継いでいるのだから。 「じーさん、本当にこんなところでこの馬鹿が天才になるの? 大金払ってるんだから失敗したらタダじゃおかねえよ?」 「心配ないよ、成功率100%だ。ああ、君、泣かなくて大丈夫だよ。もうすぐ幸せになれるからね」 「そんなことしなくていいからさっさとして、忙しいんだから」 「そんなに急いだほうがいいのかい? なら、今すぐ始めよう」  この国を優しい人だけにするというあまりにも馬鹿馬鹿しくて恐ろしい、日本再生計画を遂行できるのは。  永遠の命を手に入れた自分にしかできない事だ。  子供の頭を撫でながら、親に向かって麻酔銃を発射した。 END
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加