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物好きにも恋人岬に行きました。恋人岬ってあちこちにある気がしますが、碑文によるとグアム島に起源があるようでした。モテ期到来前のわたしは寡聞にして存じません。
……ぶっちゃけ妄想を発動するためだけに行きました。
彼女は寒いのか、ツンデレなのかそっぽ向いてます。
春暁の恋人岬に誰もなし
彼女:『恋人岬連れて来られる身にもなれ』ドヤッ!
わたし:内心ではそう思ってる人は多いだろうね。
まだ7時前です。誰もいるわけありません。お腹痛いです。
…笑ってやってください。でないと余計惨めです。
源義経が奥州に落ち延びる途中、妻がにわかに産気付き、柏崎の当地で仮の産屋を建てたところ無事に嫡男亀若丸をさずかった。これに感謝して弁慶が胞衣(えな)を納め、胞姫(よなひめ)神社とした、ということです。
彼女:『苔いっぱいぬるぬる階段の神社です』
わたし:確かに。胞衣だし。
義経伝説はともかく、断崖絶壁から荒海に落ちていく地形と、かつての妊産婦たちの仄暗い身の上が響き合うように感じました。
花曇り崖より覗く胞姫や
なかなか手強い階段を登ります。階段の上までクルマで行けるんですが、意地を張ってしまいました。
彼女:『春の日に春日山城に君と来た』
わたし:初めての季語ありだね。日記みたいだけど。
彼女:だよねー。でもさー、字数が足りないんだよ。
わたし:こういうのは?『春の日に君が手を引きし春日山』
彼女:思い出になっちゃった?
頂上付近が上杉謙信の居城です。ですが、やめておきました。
花終わりたれば色づくこの山訪ねたり
彼女:終わりたれば色づくって変じゃない?
わたし:東京の桜が終わったから、色づき始めたこの山に来たって感じなんだけど。
彼女:複雑だね。
わたし:昔の和歌にはよくある情趣だけど、俳句だとわかりにくいかな。
彼女:……じゃあさ、『色づく山終わりたる花の転生か』ってどう?
わたし:ラノベか!
なぜか中年の女性と社殿に参拝します。二礼二拍手一礼もシンクロしています。お互いちらとも見ないけれど、とても魅力的だったような記憶があります。
春日山稀なることも稀ならず
妄想が現実を浸蝕することはめずらしいことじゃないような。
歩いて降りて行くと、山の世話をしているらしき人が良く通る声で挨拶してきました。
人来たり人去りぬれば山笑う
わたしの脇を通り過ぎるとすぐに見えなくなりました。
「運転気をつけてね」とかすかな声が聞こえます。
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