今井千鶴のとおまわり

８

「おー、ちょっと雰囲気が変わったねぇ」
「まだ陽は沈んでないみたいですね」

　空は西のほうが茜色になってきたが、富士山周辺は薄暗い青空という感じで、イメージしていたほどのインパクトはなかった。
　遮るものがほとんどないという意味では、確かに富士山はくっきりきれいに見えている。

「角度的に、夕陽と富士山をセットで見るのは難しそうだね」
「そうですね。僕たちがいるのは富士山のほぼ北ですから」
「暗くなってきたからかな、ちょっと寒くなってきたね」

　千鶴さんは特段薄着をしているというわけではないが、もともと寒さにはめっぽう弱い人だから、この時期のこの時間ともなると、寒く感じるのかもしれない。

　僕は風が心地よいくらいにしか思っていなかったけど、千鶴さんの言葉を無視するわけにはいかない。