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「ここから近いの?」
車を走らせてすぐに、千鶴さんがこう聞いてきた。
富士五湖エリアに来てからは音楽を流していないから、車内は基本的に僕たちの話し声しか聞こえない。
「混んでなければ三十分くらいでしょうか」
「車はだいぶ減ってきたね。それでも三十分はかかるんだ」
所要時間によって何かが変わるのかと思ったが、こういうときは黙っていれば話が進むはず。
僕はあいまいな返事だけして前に集中する。
「さっきの話の続きをしようかと思ったんだけど、暗くなってきたから難しいかな?」
さっきの話ってなんだったかな。
僕の中でのさっきは展望デッキでの幸せなひとときだから、その話になるとちょっと照れくさいかもしれない。
「大丈夫ですよ。しばらく道なりに進むだけですし、気にしないでください」
「私がアイラインとかマスカラをほとんどしない理由はわかった?」
その話だったか。
千鶴さんの指示語問題は相変わらず難しいし、こういうところでワンクッションはさまずにいきなり本題に入るのもいつも通りなのに、僕は毎度のように面喰う。
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