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「蓮くんだって、お化粧してたほうがいいとは思うでしょ?」 「そりゃあ、まぁ。だけど、それであんなに苦労するなら、もうちょっと楽にできないものかとは思いますけど」 「そうは言っても、無意識に比べてない? お化粧をしていない女性はかわいくないとか、華がないとか」 「そう言われちゃうと……」 「でしょう? そりゃそうだよ。きれいなほうが印象いいに決まってるもん」  そこは認めざるを得ない。  実際に見比べる機会はないとはいえ、お化粧することそのものを否定することは難しそうだ。 「じゃあ、お化粧は大変でもしっかりするべきだってことですね」 「私はそう思うよ。もちろん生きていくためには必要ないと思うけど、今はそういう極端な話じゃなくて、こんなふうに普通にデートができる二十代の男女での話だから」  ここで話はひと段落を迎えたのだろうか。  ここまでは理解できないことはない。  むしろ千鶴さんの言い分にちゃんと納得もできている。 「でも、どう考えても女性のほうが大変ですよ。これもしょうがないってことになるんでしょうか」  せめてこれは言っておきたかった。  僕が一番心苦しいと思っていたのはこの部分だから。 「そう思ってくれてるだけで嬉しいよ。世の中にはきっと、そんな配慮をまったくしない男の人だっているんだから」  千鶴さんに伝わったのならそれでいい。  千鶴さんの陰ながらの努力に対し、僕は敬意を払うことは忘れないようにしたい。
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