11/18
前へ
/198ページ
次へ
「えっと、お化粧の話ですよね」 「うん。女性がお化粧をする理由」 「これまでの話でなんらかの結論が得られたんでしょうか」 「そんなんじゃないよ。女性が、なんて言い方はしてるけど、あくまでも私の価値観だし」  千鶴さんにとって何かしら満足できることがあったのなら何も問題はないのだが、僕がそれにどう関わっているのかはわからない。  こういうところをわかるようになりたいと常々思っているのだが、なかなかうまくはいかないようだ。 「女性がお化粧をする理由なんて、出そうと思えばいくらでも挙げられるとは思うよ。それこそ、いい面ばかりじゃないよね」 「……はい」  今の千鶴さんの言い方からして、よくない面に関しては目をつぶる方向に話が進みそうだ。  そりゃそうか、今はあくまでデートに出かける男女においての話なんだから。 「化粧なんてめんどくさい。だけどすっぴんは見せられない。お金も時間もかかる。うまくできるかどうかもわからないし、どのアイテムがいいのかもわからない」  千鶴さんの口からよくない面を列挙されると心に刺さる。  でも耳をふさぐわけにはいかない。 「それでもお化粧はする。ってことは、なんだかんだ言ってもお化粧したいんだよ。女の子ってたぶんそういうもの」  女性から女の子という表現に変わった。  さすが千鶴さんは物書きだ。  この変化だけで、千鶴さんの言いたいことのニュアンスがはっきりした気がした。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加