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「きれいになった私を見てほしい。かわいいって思ってもらいたい。気になる人がいるのなら、なおさら」
ここまで来れば、もう千鶴さんが何を言いたいのかはわかる。
それでも僕は、あえて何も言わないことにする。
だってこの先も、千鶴さんの言葉で聞きたいから。
「ファッションと同じでさ、ここは努力するべきところなんだよ。だから私は、お洋服選びもお化粧も、全然嫌じゃないよ。むしろ楽しくやってる」
「……はい」
「だから、最初の質問に戻るよ」
僕にしては珍しく、ここでいうところの最初の質問がなんのことかがすぐにわかった。
それでも僕はあえてこう聞き返す。
「なんでしたっけ?」
「私がどうしてアイラインとかマスカラをあんまり使わないのか」
この質問に対する最適解を、自力で思いつくのは難しい。
千鶴さんの講義によってなんとかここまでたどり着いた。
タイミングよく変わった青信号に背中を押されるように、僕は自信を持って答えることができた。
こんなにちゃんと答えられたこと、今までにあっただろうか。
「僕の好みに合わせるため、ですね」
「……よくできました」
今きっと、めちゃくちゃかわいい表情だったんだろうな。
ミラー越しにでも見られればよかったのに。
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