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「そうね、たしかに初めての試験だと、どんなもんか分かんないよね。試験勉強だったら、金子くんに聞くのが一番いいよ」
「先輩、やっぱり成績優秀なんですか」
私が聞くと、先生は大きくうなずいた。
「ここに入学してから、試験で一度も首位を落としたことがないくらい優秀よ」
「えぇ!」
心のなかでガリ勉だと思ってはいたけど、そんなに成績が良いとは思わなかった。毎日勉強しているだけのことはある。ガリ勉がみんな成績優秀なわけじゃないけど、先輩は結果のともなったガリ勉のようだ。
「学校の成績だけじゃなくて、模試の成績も全国上位に入るくらい良いみたいよ」
「すごい」
「ね、ただのガリ勉くんじゃないのよ。見直したでしょ?」
倉田先生はいつものように「外は明るいけど気をつけるように」と言うと、片手を振りながらドアを開け職員室に入っていった。
先生の言う通り、来月には期末試験がある。試験の一週間前から試験期間と呼ばれ、部活動は全面禁止になる。そうなると、カナとミキの部活が終わるまで図書室で待つ必要もなくなってしまう。二人はきっと、図書室に誘ったら来てくれるだろうけど、それはあんまり気が進まなかった。それに、まだ二人には先輩のことを話したことがない。
靴箱に向かって階段を降りていると、少し先に先輩がいた。もうとっくに校舎を出ていると思ったのに。自分のクラスに忘れ物でもしたのかもしれない。
私の階段を降りる足音に気づいて、先輩が頭を上げる。目が合うと、声をかけたわけじゃないのに、そこで立ち止まって私が追いつくまで待ってくれた。階段を二段分残しても、まだ先輩の方がほんの少し背が高い。
「先輩もこれから塾ですか」
「うん」
少しだけ視線の高い先輩にそうきくと、先輩は片手に持っていた小さな問題集を持ち上げた。その表紙には、有名進学塾のロゴが書かれている。入塾試験が難しいという話を聞いたことがあるけど、実際に通っている人に会うのは初めてだ。先輩の頭がいい話は本当だったんだ。
「そこって、ここからちょっと遠いですよね」
「うん、電車で三駅だね」
電車で三駅だと少し遠いけど、駅自体は学校から近いから通うには不便ではなさそう。
「毎日通ってるんですか?」
「毎日じゃないよ。試験前になれば毎日講習があるけど」
「じゃあ、私と同じですね」
そう言ってから、試験期間のことを思い出した。先輩は試験期間中も毎日図書室に来るつもりなのかな。
「試験期間になっても毎日図書室に来ますか?」
そう聞くと、「いや」とすぐに返答がきた。
「今も試験期間が近づいてきて人が増え始めてるけど、部活が止まると途端に今以上に増えるから」
「えっ、もっと?」
「そう、もっと。あの人数じゃ図書室でも集中できないから、いつも試験前は他の場所に移ってる」
そっか、先輩は図書室には来ないのか。確かに人が増えると、周りの騒音も増えてくるし、普段図書室を使わない人が多く来るから、いつもと雰囲気も変わってきている。普段あれだけ集中して勉強している先輩だから、それは嫌だろうな。
先輩が来ないと知って、ちょっとがっかりしていると、先輩がくすっと笑う声が聞こえた。見上げると、先輩はまだ目元が笑っている。
「妖精もついに図書室に通うのやめる? 図書室に行かなくなれば妖精のあだ名も消えるんじゃない?」
たしかに。でも、ここで「行かない」と答えたら、なんだか先輩が行かないから私も行かないって言ったみたいに聞こえそうで、ちょっとくやしい。先輩が笑っているのも、私がそう思っていることを見透かされたみたいで面白くない。
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