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先輩と試験期間の話をしてから数日が経ったけど、私の中でまだどうするか結論は出ない。
「おまたせ」
今日の待ち合わせは、カナが一番乗りだ。靴箱のはしで、壁にもたれながら自作の単語帳をめくっている。私が近づくとちょうど顔を上げたカナと目が合って、単語帳を閉じて足元のカバンを拾って歩いてきた。
「今日は遅かったね」
靴を履き替える私の横で、カナは壁にかかった時計を見ている。
「倉田先生が来るのがちょっと遅かったんだ」
「試験前だから先生も忙しいのかな」
「そうかも」
今日はどうしたのかな、と思っていたけど、たしかに先生も準備でいろいろ忙しかったのかもしれない。いつも軽い話口の姿に、うっかり先生だったことを忘れそうになるときもあるけど、倉田先生も試験問題を作ったりしているはずだった。
「ミキももうすぐかな」
「試験期間前さいごの週だから、練習もギリギリまでやってるみたいだね」
吹奏楽部の練習の音は、学校中に響き渡っている。音楽室の窓を開けて練習をしているから当然だけど、楽器の練習じゃないときのかけ声もなかなかのものだった。毎回合奏やかけ声が聞こえてくるから、ミキの練習が終わっているのかどうか、靴箱で待っていても大体わかる。ついさっきまで楽器の音がしていたから、ミキの登場はもう少し先になりそうだ。
カナにあいづちをうちながら、来週からの試験期間のあいだ、塾までの時間をどうするべきかまだ考えてた。カナとミキは一旦、家に帰るのかな。帰宅してから塾に行くのは、距離と時間を考えるとやっぱり避けたい。なんせ外はもう灼熱になりかかっているし、移動のぶん勉強する時間もけずれる。
図書室も今までより気温は上がっているけど、まだかろうじて快適に過ごせる環境ではあった。カウンターという指定席もあるし、人も増えたとは言え静かなことに変わりはないから、今のところ落ち着いて勉強できてる。
でも、先輩は試験期間中は来ないと言っていた。戸締まり間際の先輩とのやり取りがすっかり日課のようになっていて、先輩が来なくなると聞いてからずっと、なんだか寂しいような、がっかりするような感じがしていた。
「ごめん、おまたせ!」
英単語帳を広げるカナのとなりで試験期間中のことについて考えていると、汗だくのミキが結んだ髪をぴょこぴょこと上下させながら走って登場した。汗で前髪がおでこに貼り付いている。
「今日もまたすごい汗だね」
カナもミキの汗におどろいてるみたいだ。
ミキはカバンから水筒を取り出すと、ふたを外してゴクゴクと一気に飲み干していく。まだ溶けずに残っていた氷が、カランと甲高い音を立てた。ミキはお茶を飲み干すと、首にかけたフェイスタオルでおでこを荒っぽく拭きながら大きく息を吐く。
「最後に走り込みしてきたから、もう汗だく」
「ミキの話を聞いてると、運動部だったかと思うときがあるね」
練習の内容を聞いて、自分がするわけじゃないのにげんなりする。体力づくりと称して、ランニングや筋トレを頻繁にする吹奏楽部の活動についていけるミキを尊敬する。そのおかげか、ミキは入部してから少し痩せて筋肉がついたみたいで、こころなしか顔もスッキリしてきた。
ミンミンとあちこちで蝉が大合唱していて、音声だけでも暑苦しい。少しでも涼しい場所をさがして、わずかな日陰を選びながら塾に向かう。
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