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「来週から試験期間に入るけどさ、二人は部活が休みになったら、塾の前に一旦家に帰る?」
この一、二週間ずっと気にしていたことを聞いてみると、二人同時に「うん」と返事がかえってきた。やっぱり、予想していた通りの答えだ。図書室に誘うかどうか悩まなくて良くなった私は、少しほっとした。
「試験期間に入ったら、毎日塾の授業があるじゃん? 学校は暑すぎて、毎日残ってから行くのはちょっと堪えらんない」
ミキは下敷きをうちわ代わりにパタパタとあおいでいる。カナもうんうんとうなずいていた。
「私も一回帰る。塾の分の荷物、毎日持ってくるのも重いし。学校からの方が近いけど、暑いのは無理」
「そっか。じゃあ、試験期間中は塾の帰りだけ一緒かな」
「メイは帰らないの?」
ミキに聞かれて「図書室に行くつもり」と答えたら、「さすが妖精」とからかわれた。何度も言われてきた言葉に、眉間に少し力がこもる。
「もう、それ本当に忘れてってば」
最初は不本意なあだ名を不憫がってくれた二人だったけど、うわさが消えずいつまでも漂っているうちに、ちょっとした冗談として使うようになってきた。私はまだ、そこまでこのあだ名を消化しきれていないから、いちいち反応してしまう。
「夏休みになれば、みんな嫌でも忘れるよ」
「そうそう」
ミキとカナは二人して簡単そうに言うけど、夏休みまではまだ一ヶ月近くある。そんなに長くこのあだ名に堪えなきゃいけないなんて、気が滅入る。
私はそのネタで話しかけられるのが嫌で、必要最小限の返事で会話を終わらせていた。それが原因で、中島の言う通り人を寄せ付けないオーラがあると、ますますうわさされるようになってうんざりしている。そうじゃないのに。
「来週、試験期間に入ればみんなテストのことでそれどころじゃないって」
「そうそう」
ミキの言葉に、またカナがこくこく頭を振る。
たしかに、そうかもしれない。私たちにとっては初めての試験だから、みんな少なからず緊張している。試験期間が近づくにつれて、試験の内容についての話題が増えてきた。あんまり話したことがない人と授業でペアになっても、試験の話題を振れば何となくお互いに話が続く。
「先輩にさ、どんな感じか聞いてみたんだけど、数学の問題が結構えぐいらしいよ」
ミキの情報に私とカナは、げぇ! と声をあげた。数学は私の苦手科目なのに。同じく数学が苦手なカナと目が合う。私たち、今回の試験はダメかもしれない。
「今からでも、まだ間に合うかな」
弱気なカナの発言に、私まで不安になってくる。試験で点数が低かった人は、夏休みの宿題が追加されることになっている。それはなんとしても避けたい。
「おんなじパートの先輩が去年の数学の試験持ってて、土曜日に見せてくれるって。二人も見る?ちょっとだけ勉強もみてくれるって」
ミキからの提案に、図書室で勉強する先輩の姿が頭をよぎる。学年首位から一度も落ちたことがない先輩を超える逸材はいない。でも、勉強を教えてもらえるかといったら、微妙だ。聞いたら教えてもらえるのかどうかの問題以前に、私にそんなことを聞く勇気がない。
「うーん、会ったことない人だし、いきなり私が加わるもの悪いからやめとこうかな」
カナが断るのに便乗して、「私も」と言うと、そう返事がくると予想していたのか、ミキからは「オッケー」と軽い言葉がかえってきた。
「あとで問題のコピーだけあげるね」
「ありがとう!」
ミキから斡旋してもらえる問題のコピーがあれば、数学はもしかしたら何とかなるかもしれない。私とカナは、頑張ろうと互いを励ましあった。
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