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「カズ兄が桜井の話してたから、他の人の当番も代わりにやってるって知ったんだよ。それで、本当に? って思ってこっそり確認してたんだ、ごめん」
「先輩、そんなこと話してたんだ」
自分のことを知らないところで話されていたと知って、なんだか気恥ずかしい。先輩が私のことを話題にしていたことが少し嬉しくて、口元がゆるんだ。
「先輩、ああ見えて結構おしゃべりだね」
中島は力が抜けたように、隠していた顔から腕を外してうなずく。
「なんで彼女がいること隠してるの?」
「俺、結構からかわれやすいから、彼女のこと話したら彼女もちょっかい出されると思って」
確かに。うわさのことで散々な目にあっているだけに、説得力がある。
「でも、別の学校なんでしょ?」
「部活の練習試合とかでよく行くし、塾とかでも会うから、他校にも友達結構いるんだ」
「そうなんだ」
「知らないうちに俺のことで彼女が絡まれてたら嫌じゃん」
今回、私は彼女ではないけど、中島が好意を持っているというネタだけで、かなり長い期間あちこちから声をかけられ続けた。もちろん私の見た目やキャラも要因だったと思うけど、彼女がバレたら似たようなことになったのかもしれない。
ただの能天気で陽気な人気者だと思っていたけど、中島には中島の苦悩があったんだ。中島のことは、なるべく関わりたくない存在という認識だったけど、かなり好感度が上がってきた。
「それに、彼女いるって友達に言うの、普通に恥ずかしくない?」
「そうなの?」
彼氏ができたことがない私には、それはピンとこない。
「だって、好きな人がいるって話するのめっちゃ照れるじゃん」
「それは、うん」
一瞬、頭の片隅にいた先輩にスポットライトが当たった気がして、自分にドキッとする。先輩は図書室でいつも一緒になるだけの相手で、そんなんじゃない。そう言い聞かせていたら、廊下の奥から突然先輩の声がした。
「光!」
私たちはびくっと肩をふるわせると、同時に振り向いた。まだ試験期間じゃないから、この時間は図書室にいるはずなのに。そう思いながら先輩を見つめるけど、先輩は中島を見ている。
「カズ兄」
「ここで何してんの」
むすっとした表情と態度から察するに、あんまり機嫌はよくなさそう。中島もそれを感じたらしく、慌てて言い訳をする。
「桜井にたまたま会ったから、うわさのことで謝ってて」
「ああ、あれね」
中島の話を聞いて、少し納得してもらえたらしい。それでもまだ少々ご機嫌ななめといった様子だ。先輩の口元は若干への字になっていた。
「今日は、光が勉強見てほしいって約束した日だろ」
「あっ! ごめん!」
先輩の言葉に、中島は慌てふためいている。そんな約束をするほど仲が良いのか、とちょっと羨ましい。中島は「すぐ戻ってくる!」と言い残して、自分のクラスに駆け込んでいった。
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