日陰に咲く

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 中島の背中をぼんやりと見送っていると、先輩が話しかけてきた。 「メイちゃんは、今日は帰宅の日じゃなかったの」  中島がいなくなったからか、先輩の声音は少し落ち着いていつも図書室で話すときと変わらない。もう怒ってはなさそう。ほっとしながら先輩を見上げる。 「帰るはずだったんですけど、先生に手伝いを頼まれてたら雨が降ってきちゃって」 「傘持ってないの?」 「はい」  朝の天気予報では午後の降水確率はかなり高かったのに、ちゃんと傘を持たなかったズボラに見られていないか心配になる。用意はしてたんだけど、家の玄関に忘れてきただけなんです、先輩。でもそうやって言うのも、必死に言い訳をしているみたいで言えない。 「今日のは通り雨だから、すぐに止むみたいだよ」 「よかった」  先輩は窓の外を見ながら言う。まだ外は降り始めたばかりの雨がどしゃ降りだ。傘なしで帰る選択肢は絶対にない。このまま今日は、図書室で勉強コース確定だ。  先輩と中島はどこで勉強するんだろう。図書室は人が増えてきて、二人で席を確保するのは少し難しそうだ。それに、今の時期にあそこで会話をしていたら、たとえ内容が勉強のことだとしても周りが許してくれなさそう。どこかの空き教室を使うのかな。  中島、いいなあ。私も先輩に勉強をみてもらいたい。この前みたいに、もう少し先輩と話せたらいいのに。そんなことを考えてしまう。 「メイちゃんも光と一緒に勉強していく?よければ分からないところ教えてあげるけど」 「えっ」  まるで頭の中を読まれたみたいに今考えていたことをきかれて、心臓がはね上がった。まさかの申し出に、走り出した心臓が止まらない。 「あの、いいんですか?」 「どうぞ」  先輩はあっさりうなずいた。絶対に起こらないと思っていた出来事が、あっさり叶ってしまった。中島というおまけが一緒だけど。いや、中島がいたからこそ叶った願いだ。心の中で感謝していたら、荷物を取りに行っていた中島が戻ってきた。 「お待たせ!」 「メイちゃんも今日勉強してくってさ」  戻った中島に先輩がそう言うと、中島は腕で大きな丸を作った。 「二人より三人!」 「別に敵を倒しに行くわけじゃないけど」  中島の返事に、先輩が小さく笑った。
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