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「メイ、おまたせ」
「おまたせー」
図書室の戸締まりをして靴箱で待っていると、部活が終わったカナとミキが廊下の奥から走ってきた。
「じゃあ、行こっか」
三人で塾に向かって歩き出す。
私たちは、小学生のころから仲良く同じ塾に通っている。一旦家に帰るのが面倒で、塾がある日はいつもカナとミキの部活が終わるまで待っている。
五月になって急に暑さが増してきた。陽にあたると前髪でむれて、おでこが熱を持つ。暑いし不快だとは思うけど、前髪を今以上に短く切る勇気は出ない。これがないと、落ち着かない。
暑くなったからといってすぐに制服が夏服になるわけじゃないらしい。ワイシャツの袖をまくると、少し暑さがやわらぐ。もう暑くてブレザーは着れない。横で同じように袖をまくり上げながら、カナとミキが話しかけてくる。
「メイ、今日の図書委員の当番どうだった?」
「三組の中島、来たの?」
「忘れてたみたい。私一人だった」
今日の報告をすると、二人は図書室に着いてしばらくしたあとの私のように喜んだ。
中島は学年でも有名なお調子者だから、私たちみたいな、クラスのはしっこに集まるようなタイプは彼を警戒している。悪いやつじゃないけど、下手に絡むと要らぬスポットライトを浴びて、注目されなれてない私たちはあっという間に醜態をさらしてしまう。
カナが難しい顔をしながら口をひらいた。
「忘れたんじゃなくて、サボったんじゃないかな」
「そうなのかな」
「中島、図書委員に立候補するとき、一番楽そうな委員会がいいって言ってたから」
カナは中島と同じクラスだから、図書委員に決まるまでの一部始終を知っていて、そのいきさつを教えてくれた。他にも手を挙げた子はいたけど、発言権の大きい中島がその座をかっさらっていったらしい。
「先生もきちんと言えばいいのにね。それじゃ不公平じゃん」
ミキは、カナの話を聞いて少し声が大きくなる。似たような場面は今までに何回もあったし、珍しいことじゃないけど、そのたびにミキはこうして怒っている。きっと、先生もクラスの雰囲気を気にしてるんだと思う。雰囲気が悪くなったら、大人の先生が一人でいくら頑張ったってなかなかクラスは良くならない。
「このまま当番が終わるまで、サボっててくれたらいいな」
「一度サボったんだから、突然来たりはしないんじゃない?」
カナの言う通りかもしれない。サボりだったなら、明日以降もきっと私一人だろう。安心して良さそう。中島がどうか不真面目な生徒であり続けますように。
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