日陰に咲く

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 中島を待つ間、私と先輩も休憩することにした。授業よりも長い時間勉強を続けていたから、実は私もかなり疲れていた。図書室での先輩はいつも休憩なしでペンを握り続けていたのを思い出して、改めて尊敬する。私には一生できなさそう。  知らないクラスで先輩と二人きりになったのが急に恥ずかしくなってきて、黙っていると落ち着かない。中島の教科書を手に取りペラペラとめくる先輩に、無理やり話題を振った。 「先輩はどこか頭のいい学校を目指してるんですか」 「なんで?」  先輩は顔を上げずに返事を返す。 「まだ受験生じゃないのに、毎日図書室で勉強してるじゃないですか。それに学校だけじゃなくて、模試の成績もすごく良いって、倉田先生が」 「そんなこと言ったの、あの先生」  あんまり知られたくなかったのか、先輩はちょっとだけしかめっ面になっている。先生が言わなくても、試験の成績と一緒に自分の順位も返ってくるから、誰がどれくらい頭がいいかなんてすぐに広まっちゃうと思うけど。特に入学以来、学年首位を落としたことがない先輩だったら、学年の間では有名なはず。 「将来、なりたいものがあって、そのために今からそなえてる」  先輩は少しの間のあとに、控えめな声でそう答えた。図書室でのやり取りに思い当たる節がある。 「もしかして、宇宙?」 「うん」  あの宇宙の本たちは、そういうことだったんだ。ただ好きで借りているんだと思ってた。勉強といい、先輩はかなり真面目なタイプなんだな。 「学者とかを目指してるんですか?」 「いや、あー、その、実際に行くほう」 「え、それって、宇宙飛行士?」 「うん」  予想外な答えに思わず先輩を凝視してしまう。先輩はこちらを見ずに、窓の外に視線を逃している。  宇宙飛行士って、厳しい条件をクリアした数人だけがなれる、子どもたち憧れのあの職業のことか。普段クールな先輩から、そんな夢のある目標が返ってくるとは思わなかった。 「この年でそれ言うと、子供っぽい夢みたいに思われるから、中学に入ってからは言ってないんだけど。でも、本気でなりたいと思って勉強してる。宇宙飛行士になった人たちは理工学系や医学系の出身者が多いから、そういう進路に進もうと思ってるんだ」 「それでいつもあんなに真剣に勉強してるんですね」  目標があって努力を重ねられるその真っ直ぐさが、私にはすごく羨ましかった。将来の夢どころか趣味さえまともに持っていない私は、この手の話題に気後れしてしまう。  それ以上返す言葉が見つからなくて、「そう言えば」と探してもいない中島のことをキョロキョロと探すふりをした。トイレと言っていたのに、まだ返ってこない。具合でも悪くなったのかな。
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