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ミキは吹奏楽部の朝練があるから、登校はいつもカナと二人で歩く。
日中は暑いけど、まだ朝は涼しい。少し冷たさの残った空気に、髪をしばってさらされた首が冷やされて気持ちいい。
「メイ、最近ずっと図書室にいるね」
数学のノートを私に手渡しつつ、カナが口をひらく。私は受け取ったノートをめくって、解らなかった問題の解き方を見ながら返事をした。
「うん。実は図書室がすごい涼しいって知ってた?」
「そうなの?」
「校舎の日陰にあるし、風通しもいいから教室より涼しいよ。それに人も少ないし、一人でいろいろしててもお互い気にしないし」
「なるほど」
一旦納得したように見えたのに、そうじゃなかった。
「メイも何か部活に入ってみたらいいのに。まだ五月だし、今なら間に合うよ」
カナにそう話を振られるのはもう三回目だけど、そのたびに私は言葉をにごしている。部活に入りたくない強い理由があるわけじゃないけど、入りたいと強く思える部活もない。
カナとミキはそれぞれ美術部と吹奏楽部に入って自分のやりたいことをやってるけど、私には趣味も特技もやりたいこともない。友達もたくさん欲しい方じゃないから、今のままでも困らない。カナは二人の部活が終わるまで、私がいつも一人で待ってるのを気にしてるんだ。
「特別やりたいこともないし、とりあえず今のままでいいかな。図書室にいるの気に入ってるし」
「そう?」
まだちょっと気遣わしげなカナと目が合う。
「二人のこと待ってるのも、特に苦じゃないから心配しないでね」
「うん」
うん、とは言ったけど、まだ気にしているのがバレバレな顔をしている。どうしたら安心してくれるだろう。本当に気にしてないんだけど。
学校に近づくと、吹奏楽部の練習する音が聞こえてきた。どうやら合奏をしているらしく、曲の一部を演奏しては止まってを繰り返している。
吹奏楽部は夏の大会に向けて、段々と練習が厳しくなっているらしい。まだ入部したての一年生は、先輩たちの足を引っ張らないように必死に練習しないといけない。小学生のときから吹奏楽部でユーフォニアムを続けているミキでさえも、ひいひい言いながら練習していた。
「ミキのコンクールは夏休みだよね」
「うん。夏休みは土日以外は毎日練習なんだって」
「えっ、毎日?」
「夏休みの練習が一番大事なんだってさ」
カナから聞く部活動の話に、帰宅部の私はおどろく。授業がないのに、毎日学校に来るなんて信じられない。
カナの話によると、吹奏楽部以外にも夏休みの平日は毎日活動するという部活がいくつかあるらしい。県大会や地区大会を目指す強豪部が多いため、どの部も活動が盛んなんだとか。
「美術部も毎日じゃないけど週に三日は通うよ」
「それじゃあ、夏休み中の塾はバラバラに行くことになりそうだね」
カナの話を聞いて、私は少しがっかりしながらつぶやいた。
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