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図書室通いが日課になり、やっと制服が夏服に変わった。もうすぐ梅雨入りだそうだけど、すでに空気はジメジメとしていて、湿度の高い空気が重たく肌にまとわりつくのがたまらなく不快だった。放課後になると、一目散に図書室にかけこんで涼んでいる。風通しがよくて、図書室だけは除湿機がついてるみたいに空気もかるい。
相変わらず図書室に人は少なくて、あの先輩もたぶん毎日来ていて、いつも指定席に座っている。少しも集中力を欠くことなく勉強している姿は、少しでも見習った方がよさそう。
そして、カウンターは私の指定席になった。
私が当番の代わりをしていることが他の図書委員に知れ渡って、誰も当番に来なくなったからだ。
知れ渡ることになった原因は、例の中島だった。
「この前図書委員の当番があったんだけどさ、俺すっかり忘れてて! いっけねーって思って次の週に外から図書室のぞいてみたら、ペアだった女子がやってくれててさ、そのままフェードアウトしちった」
図書室の窓を開けていたら、中島がそう大声で話しているのが校庭から聞こえてきた。カーテンの影にかくれてそっと様子をうかがうと、野球部員が集まってストレッチをしているところだった。最初はサボりじゃなかったのか、と意外に思ってから、結局サボったのか、とあきれる。
中島の後ろにいた二年生が「俺も」と話し始めた。あの顔には見覚えがある。たしか彼も図書委員だ。
「実は先週当番だったんだけどさ、部活の当番もあったからサボっちゃったんだよな。俺のペア誰だったんだろ」
「先輩大丈夫っすよ。俺のペアだった女子、図書室にずっと通って当番してくれてるみたいなんで」
「え、すげーな。つか、なんでお前そんなこと知ってんだよ」
本当だよ! と私もそっとツッコミを入れる。
「いや、ごめんって謝ったほうがいいかなと思って探したら、図書室に入っていくのが見えて」
「そこまで見てて、なんで謝らないんだよ」
「なんか、暗くて話しかけにくいタイプっつーか。前髪も長くて、あんまり目見えないし、人を寄せ付けないオーラがあって話しかけにくかったんすよ」
話したこともない中島の言葉に、一瞬、胸がつまる。
たしかに前髪は長いし、目はかくしている。けど、人を寄せ付けないつもりはなかった。相手から少しかくれているだけなのに。話しかけられれば普通に話すのに。
「お前話しかけないで遠くから見てるだけなんて、その女子好きなんじゃねーの」
「違いますって」
「中島、奥手な女子がタイプなのかー」
「お前だいぶうるさいから、ちょうどいいな!」
「本当に違いますって!」
その後、しばらくそのネタで盛り上がり、私は知らぬ間に「中島の片思い相手の図書室の妖精」というあだ名をつけられ、学年中に知れ渡ることになってしまった。知らない人からも声をかけられ、中島との関係を聞かれたりして本当にうんざりしている。
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