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「プライベートでもっと人と会う。仕事とは関係のない人。ご飯食べて、酒飲んで、たまには映画とか行ってさ。要するに、気を遣わなくても会える人だよ。俺たちみたいに、な?」
晃はどちらかというと内に籠りがちな人種だ。
特に社会人になってからはその傾向がより強くなった。というのも、会社という人間社会の中で生きていくと、自然とその中だけが自分の世界となってしまうからだ。
枠を超えるためには、何よりも自分の行動力が一番の原動力だ。
現に晃の同期の元木がそういうタイプの人間だった。
同期なのに晃とは全く違う価値観を持っており、パワフルに仕事を率先してこなしていく。
プライベートにおいてもそうなのだろう。
以前、経理の若い女子が元木を熱い眼差しで見つめていたから、きっと元木は何をしていなくても、そういった魅力が駄々洩れしているのかもしれない。
「でもさ、会う人なんかいないよ?雄二はよく知ってると思うけど、僕は社交的ではないし、休みの日に会う友人なんて雄二と陽向くらいしかいないし。かといって、出会いに困ってパーティとかに出歩く気力もないし」
言いながら出来ない理由をつらつらと並べているようで、自分が情けない。
けれどこれが自分なのだ。
できない理由を並べて自分を守る。
そうすれば仮にできなかったとしても、ほらやっぱりできなかったと自分にツ都合の良い言い訳ができる。
「そうだよな、晃はそういう奴だよな」
いくら十四年の親友だといっても、ついに呆れただろうか。
内心、びくびくしながら雄二を見つめると、意外にも雄二は満面の笑みを浮かべていた。
「だからさ、晃。俺が紹介するよ」
「え、ええ?雄二が僕に?」
「おう。最近、喫茶店に来てくれたお客さんで、普段はバーテンダーと傾聴カウンセラーとして働いてる人でさ。物腰も柔らかくてめっちゃ話しやすい人だから、きっと晃も大丈夫だ。一回会ってみて駄目なら俺に言えばいい。どうだ?これなら晃の悩み、解決できるんじゃね?」
軽く言った雄二に晃は呆然とした。だって、どう考えても信じられないのだ。
もちろん、その提案こそがという気持ちもある。雄二の友人でもない、お客さんで本当にその人が言っていることが正しいのか、晃には判断できる材料もない。
が、それよりも現実主義の雄二がそう言ったことに驚いている。
「たしかに、ね。雄二がそこまで言う人なら一回くらい会ってみたいかも」
なのに、気付けば前向きな言葉を口にしていた。奇跡、そんな言葉がまだ晃の頭の中にこびりついて落ちない汚れのように残っているからだろう。
「だろ?そう言うと思った。じゃあ早速、会う日をセッテイングするわ。いつがいい?」
「あ、ちょっと待って。まずはメッセージから始めたいんだけど」
「わかってるよ。じゃあ、その人の連絡先、教えてもいいか聞いておくな?」
「うん、お願いします」
口にしてから、ドキドキと胸が鳴っていた。
―会うのが怖い、けれど会ってみたい。
相反する心を隠すように、胸の辺りをきつく握っていた。着ていたシャツが皺になることにも気が付いていなかった。
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