想定外な出逢い。

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想定外な出逢い。

世の中の人には、一体どれくらいの人が奇跡という偶然を起こしたことがあるのだろう。 テーブルの上に置かれたリモコンを手に取り、テレビの電源をつけた晃の耳に、アナウンサーの甲高い声が聞こえる。 『これは奇跡です!』 その声につられるようにしてテレビ画面を見てみると、アナウンサーの明るい声が聞こえる。どうやら今日は奇跡のエピソード特集を取り上げているらしい。 芸能人が語る奇跡のエピソードを聞きながら、晃はふと、世の中のほとんどの人が考えもしないようなことを考えていた。 たとえば、奇跡と呼ばれる体験をした人が、この世の中にどれだけいるのだろうか。 たとえばこの街の人口が十万人いるとして、その中で今日すれ違ったどれだけの人たちが、奇跡を体験できるのだろうか。 そう思うのは、くだらない妄想のせいだ。もし、早朝から晩まで駅の出入り口に立って、街頭アンケートでもして知り得ることができたとしても、実際にはその答えを心の底から知りたいと渇望する人は、確立として百人に一人いればいいくらいのものなのだろうし、その努力にかける時間を思い返してしまうと途端に虚しさを覚えてしまうものだ。 多くの人は馬鹿らしいと、時間の無駄だと晃を嘆き憐れむように見るかもしれない。 思いながらも晃は、コーヒーが美味しいこの店の窓ガラスから見える道行く人に、聞いてみたいと思っていた。 それが世の中の大多数の人が言う『変人』という枠にくくられるとしても。 暁 晃は行きつけの喫茶店でコーヒーを飲みながら、ほとんどの人が考えようと思いもしないことをただひたすらに考えていた。 「晃、聞いてるのか?」 「あ、ああ。聞いてるよ」 「嘘つけよ、じゃあ俺、なんて言ってた?」 そう呆れたように友人の板倉雄二が言う。 「ごめん、ごめん。聞いてなかったです」 「だろ?いい加減、俺の前では取り繕うなって」 さすが雄二だ、晃の行動は全てお見通しだということか。 雄二との出会いは高校一年生の頃だ。 当時、中学まで仲が良かったクラスメイトと別の高校に通い始めた晃は、一言で言えば浮いている存在だった。 といっても、それも自分の選択で、元々、陰気だった雰囲気を変えたかったからなのだ。つまり、高校デビューというやつだ。 環境さえ変われば、人は変われる。漫画や小説の主人公のような人生を晃は夢見ていた。信じて疑いすらしていなかった。 しかし、世界は晃が思うように都合よくはできていない。 そう悟ったのは、入学してから割とすぐの頃だった。
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