想定外な出逢い。

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大きな窓一枚隔てれば、今日も働く男性女性が忙しなく、靴音を鳴らして歩いている。 明日になれば晃もあの中の一員だ。と、ふと、現実を見た。 出版会社での仕事は好きだが、つい、そう卑屈な気分になってしまうのは、自分と言う人間に自信がないからだろう。 良くも悪くも目立たない。代わりに自己主張もない。 指示を待つまで仕事をしないというタイプではないが、率先して業務を勝ち取るほどの負けん気もない。 中途半端。まさにそんな言葉がふさわしい。 思わず、自ら自己肯定感を下げながら、ポットに残っていた紅茶を注いだティーカップに口を付けた。まだ、温かい。 「で、どうして晃は信じたい派なんだ?」 もうすぐ夕方。この喫茶店では午前中と夕方が混む傾向にある。 お互い二杯目を飲み終えたら今日はお開きかな、と思っていると、雄二が興味深そうに聞いてきた。 「母親がさ、言ったんだ」 「うん、何を?」 「人生って努力の積み重ねなんだって。努力しないと自分の望む人生は手に入らないんだって。だからずっと努力し続けないといけない。それこそ、死ぬまでね。でも」 「でも?」 「なんていうんだろう。なんとなく、奇跡に縋りたい自分もいるんだ。頭のどこかに残しておきたいというか。いざという時の砦にしたい、みたいな」 きっと雄二でなければこんな話はしなかっただろう。 雄二以外ならおそらく、馬鹿にされるか憐れんだ目を向けられるかの二択になる。 こう言うと、晃の母親はとても厳格な人だと思われがちだが、実のところそうではなく、とても穏やかで優しい人だった。 一方で自身の努力不足については、とても厳しい人だった。 もしかしたら、母と違って厳格な父の影響もあったのかもしれない。 父はいつも規律に厳しい人だった。 晃が幼い頃、父の転勤で北海道に着いて行くことになった時、慣れない土地と思春期が重なり、母に対してやたらと反抗的になったことがあった。 暴言こそ吐かなかったけれども、母を無視したりわざと勉強をせずに白紙に近い状態でテストを出したりと、溜まるフラストレーションの捌け口をそうするしかないかのように思いきりぶつけたことがあったのだ。
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