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こうすればさすがの父でも、少しは自分に構ってくれるという下心もあったかもしれない。
けれど父の反応は予想外なものだった。父はそんな晃を呼び出し、夕飯抜きで説教をしてきたのだった。
当時は小学生。男子とはいえ、まだまだ甘えたい年頃だった。
規律に厳しくても例外ならば許されるだろう、そう思っていた心を見事なまでにうち砕かれてしまい、晃の心は一気に閉ざされてしまった。
そんな時、母が晃を慰めるように囁いた言葉が『努力は人を裏切らない』だった。
きっと母は、それが晃を縛り付ける言葉だとは思わなかったのだろう。
けれど結局、そうなってしまった。人の言葉は時に怖いものである。
「じゃあさ、晃が望む奇跡ってどんなことだ?」
やはり雄二は雄二だ。
憐れむこともなく、本当に普通な口調でそう聞いてくれるから、晃も気兼ねすることなく、対等に話し合える。
「ん~なんだろう。頑張らなくても幸せだって感じられるとか?」
「幸せね。ってことは、晃は現状に満足しているフリをしてたってことだ」
雄二の言葉が胸を貫いた。たしかにそうなのかもしれない。
学生の頃も大学も将来も仕事も友達も、全ては自分が選択して来た。
働くことが辛いわけでもない、生きることを辞めたいわけでもない。
この世は理不尽なことの積み重ねだというが、それはこの世を生きる上で当たり前なことなのだ。
だから不満ななかった。晃の身分で不満など、あってはならないことだ。
けれど、ただ一つ。言わせてもらえるのなら、この選択の積み重ねが果たして全て自分が選択してきたことなのだろうか。
心のどこかでそう思う自分がいることもまた、事実だった。
「晃は今、こう思ってる。仕事もプライベートも特に不満はない。でも楽しくもない。じゃあそこで俺からのアドバイス」
自信満々に人差し指をこちらに突き出しながら、雄二が言う。
「アドバイスって何?」
「それはな」
思わず、ごくりと生唾を飲み込む。
突き出された人差し指を無意識に見つめていたせいで、目が寄りそうになる。
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