全部まるごと。

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 久しぶりに一緒の休日。    遅い朝ご飯をゆっくりと食べて、散歩がてらのんびりと買い物に行く。  公園に数本植えられた桜が、一輪だけ白っぽい花をつけていた。 「あわてんぼうが、寒そうだね」    隣でふふっと笑う真思の、頬も鼻の先も桜色だ。 「マコトは寒くない?」  3月も終わりに近づき、厚手のアウターを軽いものに取り替えた途端、今朝は少し冷えている。 「うん、平気」  細身の体を抱き寄せたくなり、さすがにそれはできなくて、真思の手をブルゾンのポケットに引っ張りこんだ。   「アツシ、ひとが見るよ」 「いま、誰もいないだろ」  そんなことを言いあっていると、真思があれっ?と振り返る。  公園脇にコーヒースタンドがオープンしていた。良い香りにつられて近づくと、外にも椅子が置いてある。 「急がないし、飲んでく?」  コーヒー好きの充之はすっかりその気になっている。 「いつの間に、ここできたんだろ」    ラテの泡を上唇にのせた真思を見て、充之が笑う。 「ヒゲ生えてんぞ」 「うわ!恥ず!」 「ごちそうさん」「ごちそうさま」  自分たちも言われたら嬉しいので、挨拶をして立ちあがる。 「何が安いかな〜」 「買い物メモ忘れちゃった」 「大丈夫だろ」  片方の手はエコバッグを握り、もう片方で真思の手を掴んだ充之は上機嫌だ。  その横顔が、真思を安心させてくれる。  先のことなんて、わからない。  自分のことすら、よくわからない。  そんな自分に、ずっと隣にいていいと伝えてくれる。  そのままで、全部まるごとで。  真思は、掴まれた手を握り返す。 「そうだね、きっと大丈夫」 〈完〉
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