くる年の僕たちは。

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 真思はメッセージの真意がわからずしばらく眺めていた。 「マコ、あっくん来られないの?」 「そう‥、みたい‥。こっちに戻ってたけど、アパートに帰るって‥」 「何かあったのかしらね」  真思はまた画面を見つめると、心を決めた。 「母さん、ごめん。僕も帰るね」 「わかった。駅まで送るよ。おせちも持っていって」  母親には敵わないな、心から思った。  アパートに着くころには辺りは薄暗くなっていた。真思の顔を見た充之がクシャッと顔を歪めた。落ち着くのを待って持たされたおせちを並べる。充之はまたつらそうな顔をした。 「とにかく食べよ!特別なものは入ってないけど」  真思が箸を差し出すとやっと少し笑顔になる。おせち料理が珍しい充之に料理の意味を説明しながら食べる。単身者向けのアパートは隣も帰省しているのだろう。静かだ。  テーブルを片付けて真思が泊まることになると、充之が酒を持ってきた。真思はグラスに少しだけつきあうことにする。 「今朝はなんとか起きて実家に向かったんだ」  ぽつぽつと話し始める。 「昼前に帰ったら、親父の仕事仲間がいて。俺が転勤してから一度も帰ってないし毎年正月にもいなかったから寂しいだろうって、大晦日に飲んでそのまま泊まったらしい」    真思は充之の肩に凭れて座る。 「俺を小さい頃からよく知ってる人でかわいがってもらってた。だから俺の顔を見たら嬉しくなったんだと思う」 「そろそろ彼女でも連れてきて親父を安心させてやれって言われた」  誰でも考えることだ。 「親父はちょっと笑って、俺の好きにしたらいいとしか言わなかった。でもそうしなければ安心させられないのかと考えたら、真思の家族にも申し訳ない気がして」  よく聞く話だ。 「母さんがアツシのことを、勝手にあっくんて呼んでるんだ」  静かに答える。 「僕が何も言わなくても、僕を駅まで送ってくれて二人分のおせちを持たせてくれた」 「多分、父さんたちには恋人のところへ帰ったと説明してくれてるはず。次に帰るのがちょっと怖いけどね」  真思が笑うと何も言わず抱きしめられる。 「子供の幸せを願わない親はいないって、ばあちゃんも言ってた。今なら僕もそう思うよ」    充之の肩が少し震えた。
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