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温泉宿は連休が取れるとわかった時点で予約した。街の中心部から1時間ほどの距離だが、ジビエ料理も食べられる宿が数軒ある。
もし家族への紹介が不調に終わっても同棲の意思は変わらない。二人だけの記念のつもりだった。
途中の道の端に雪が残っている。滅多に降らない土地柄だが良い天気でよかった。到着する頃には辺りは薄暗くなっていて、予定通りにチェックインを済ませると充之がほっとした顔になった。
家族風呂が使えると教えられさっそく温泉に入ることにする。
さらりとした湯に浸かり手足を伸ばすと、真思の全身から力が抜けた。身体の強ばりとともに心も解けるようだ。
隣にいる充之も同じように寛いだ様子で手足を投げ出している。
「やっぱり、かっこいいよなぁ」
逞しい筋肉をちらちらと盗み見して、自分の薄い腹に目を移すと恥ずかしくなってきた。少し前からこっそり筋トレをしているが皮膚の下に薄っすらと腹筋が透ける程度であまり効果は出ていない。
「何を比べてんの?」
充之がこちらを向いてにやけている。
悪戯をみつかった子供みたいに、慌てた真思がお湯の中でバタつく。腕をつかまれて抱きとめられた。
「ここで襲っちゃいそうだから我慢してるんだからね」
ひそめた声で囁かれ、互いの鼓動が競うように早まっているのを感じた。
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