不確かで揺るぎない。

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 のぼせないようにと湯から上がり、品揃えのよさそうな売店を覗く。地元食材の加工品やおいしそうな菓子がたくさん並んでいる。明日は真思の実家へ挨拶に行くので手土産を買うことにした。不思議な顔のゆるキャラグッズを真思が気に入って揃いのキーホルダーを買った。あれこれ眺めているとテンションがあがってくる。共通の思い出が少ない二人は学生時代をやり直しているみたいだった。ゲームコーナーでエアホッケーをしたり太鼓をたたく。あっという間に夕食の時間になっていた。  部屋へ戻るとちょうど配膳をしているところで、卓の上にはそれぞれに小さな鍋が置かれていた。  この旅館へ予約を入れたのが直前だったのでゆっくりと寛げるなら特に希望はなかった。食事も普段食べられないものがあるといいな、くらいの気持ちだった。目の前に並んでいる料理は素朴な感じだが手がかかっているとわかる。おすすめの食中酒も1本つけてもらった。猪肉や地元野菜をふんだんに使った料理をさっぱりとした味わいの日本酒とともに堪能する。  出汁の滲みた自家製がんもを頬張り、猪肉にかぶりついている。おいしそうに食べる顔を見ながら初めて食事をした夜を思い出す。8ヶ月前がすごく遠いような、ついこの前のような不思議な気分だ。ずっと一緒にいるなんて想像もしていなかった。 「どした?苦手なもん入ってる?」 「ううん、修学旅行みたいで楽しいなって思ってた」 「あ?だったら消灯時間になる前に食っとけよ」    そうだね、と茶碗蒸しの器に手を触れて 「熱っ」と言う真思を充之が笑っている。
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