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 しめの中華麺まで食べると、本間と多恵子は、長居は無用とばかりに帰り支度を始めた。 「片付けさせてごめんね」  手土産にかわいいプリンを渡された多恵子が、嬉しそうに手を振りながら、迎えにきたご主人の車に乗り込む。  本間は充之が差し出した運転代行の料金を多恵子に「田所の食材分ね」と渡すと、それ以上はいっさい受け取らず帰っていった。  ふたりを見送ってほっと息を吐いた真思は、肩を押されぺたんと座らされる。 「疲れただろ。ちょっと座ってろ」  そう言って充之はいつものようにスポンジを手にした。洗い物担当を自認して、泡立ちのよいものを職場で探して買ったらしい。真思も慌てて隣に立ち、泡のついた皿を受け取った。  億劫な後片付けも、こうして並んでやれば楽しい。ちょっと恥ずかしいようなことも、するっと言えてしまうから不思議だ。 「今日は楽しかったね。本間さんも多恵子さんもいい人だし、アツシが頑張ってるのもわかったし」 「あれは、ちょっと持ち上げてくれてるんだ」 「ううん、ほんとに認めてくれてる感じだったよ。無理してるのは心配だけど」 「少しでも早く帰りたいなと思って……。でもあんまりうまくいってないな」    皿を手渡しながら頬にチュッとキスをされる。動きがあまりに自然だったので、真思の反応が遅れた。 「!!!」 「あ、ごめん!歯磨きもしてないのに」 「へーき!僕もおんなじもの食べてるから。じゃなくて!なんで、今、キス……?」 「えっと、なんか…したかったから……」  そう言うと途端に、充之の顔に熱が集まった。真思も横顔を真っ赤にしている。 「あ、駄目、とかじゃないから……」  水の流れる音に混じって、小さな声が聞こえた。
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