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気がつけば、瞬く間に1ヶ月半がたっていた。
冷たくなった洗濯物を、もう一度暖かい部屋に吊るしたり、カフェオレに膜を張らせたりしながらも、春がほわほわと近づいている。
恋人の、いつもとは違う表情を見る喜びや、自分を好きになり始めた戸惑いも、二人の心をそわつかせた。
引っ越しのとき充之を驚かせた段ボール箱は、数回に分けてすっかり処分した。
箱を開けるたびに中身を説明する羽目になった真思は、自分でも意外なほど、楽しかった出来事を覚えていた。これまで共有されてこなかったそれらを、充之が面白そうに引き出してくれる。
例えば、途中棄権ばかりだった長距離走で初めて完走したときに貰った手作りメダル。小学校5年生の冬だった。ビリから二番目で(ビリはお腹が痛くなっちゃた女子。かわいそうだった)メダルを見返すたびに苦しかったのを思い出してしまうのに捨てられなかった。
「それ、誰がかけてくれたの?」
「学級委員だった梓ちゃん」
「可愛かった?」
「うん。背も高くて人気者だったよ」
メダルは全員分用意されていて、皆んなは先生から貰ったのに真思だけが違っていた。
「そのときの他の男子の顔が見たかったな」
想像していたずらっぽく笑う充之にドキドキする。
「アツシはどうだった?」
「長距離走はあんま得意じゃなかった。5番くらい?」
「クラスで5番?すごいじゃん!」
「いや、学年で‥‥」
なぜか、恥ずかしそうな顔をしている。
「ひょっとして、モテてたよね?」
仕返しとばかりに真思が聞くと、顔をしかめた。
「俺が無愛想だから全然だった。なんかがっかりされたり、訳がわかんなくて」
「そんなときは、女子のほうが強かったりするもんね」
「僕も見たかったなー」
「絶対、嫌だ」
こんなふうに、知らない頃のお互いを「やっぱり好きだな」などと考えて、過去がいまに繋がっていく。
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