ゆく年の俺たちは。

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「田所、飲むぞー」    仕事を終えた俺の肩を、本間先輩がにやにやしながら掴んでいる。繁忙期に入り疲れているはずだが元気だ。有無を言わさずに居酒屋に向かう。    この面倒見のよい先輩を俺は信頼している。困っていると、さり気なくアドバイスしてくれる。失敗の理由に気付かせ、上手くいくと黙って笑っている。自分ができないときは年下にだって頭を下げる。だから誰だって懐く。  学生時代から、いつでも離れられる距離を保ち他人と付き合ってきた俺も例外なくだ。 「失恋でもしたのか?」  俺は車通勤だから烏龍茶で乾杯した。昼飯を食べ損なって腹ぺこなので焼きそばを頬張ってた。鼻から飛び出すかと思った。  返事もできない俺を、先輩が焼き鳥の串で指差している。 「バレてないと思ってる? お前、結構わかりやすいよ?」 「ちょっと前まで浮かれてたのに、ここんとこ浮かない顔してるからさ。で?振られたの?」   「振られてません!俺、なんか言いましたっけ?」  焼きそばをやっと飲み込んで返事をする。俺は個人的な話はしたことはないはずだ。なんでバレてる?焦りまくって変な汗が出てきた。 「多恵子さんも言ってるよ。王子が切ない顔してるって」    多恵子さんとは園芸担当のパートさんで、俺はものすごく助けてもらっている。今日もいつもどおりだったはず。仕事中そんな素振りはなかったと思う。そもそも王子って誰だ?汗が引かない。 「振られたんじゃないなら、忙しくてデートできなくて寂しい、とか言われた?まさか溜まっててそんな顔してるんじゃないよな」 「忙しくて会えなくても、そんなことは言いません。俺たち仲良しなんで」    俺はこの話題から逃げられないとわかり返事をする。そんなに表情に出ていたとは思わなかった。でも失恋を疑われるような顔をする理由はない。なんでそんな誤解をされたのか気になった。    
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