くる年の僕たちは。

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 大晦日。  真思は午前中アパートの部屋を掃除してから実家へ向かった。今日から4日間の休日。元日を家族と過ごして2日に戻ってくるつもりだ。10月に祖父母と母親には会っているが、父親や兄妹とは久しぶりになる。就職してからは毎年同じ日程なのだが、今年は少し気持ちが浮ついていた。 「正月には帰ってないんだよね。2日から仕事だし」    充之の言葉にものすごく驚いた。  父子家庭の彼は、子供の頃クリスマスやお正月といった家族単位の行事が苦手だったと言った。父親が頑張ってくれるのを感じるから。高校生くらいからは、徹夜で遊びに出かけていたと聞いてまた驚く。  そんな彼が、少し恥ずかしそうに言った。 「今年はちょっとだけ帰ってみようかな。真思のうちにも挨拶に行きたいし」  でも予定は未定。寝過ごすかもしれないから、と笑っていたので連絡を待つことになった。  実家では母親とおばあちゃんが台所で忙しそうだ。真思は父親が正月飾りをつけるのを手伝ったり、兄と一緒に家族の車を洗ったりした。    のんびりと手を動かしながら仕事の話をする二人は、真思が幼い頃から憧れた頼りがいのある男性像だ。父親は規模の大きなメーカーの工場勤務で定年後嘱託社員として働いている。課長職で退職したが現場での人望に厚く頼られる存在だ。5歳年上の兄はそんな父親によく似ている。営業職のサラリーマンだが主任から係長へ昇進が決まり、仕事が落ち着いたら恋人と結婚する予定らしい。  真思は身体も弱く、二人のようにリーダーシップをとれる性格でもない。これまではそのことをコンプレックスに感じていた。でもいまは素直に凄いなと考えられる。充之が認めてくれたことで自分を否定しないでいられるようになった。父と兄が真思を認めてくれていることも今ならわかる。  家族の中で一番賑やかな妹は真思と1歳違いのしっかり者だ。保育士仲間と旅行に出かけて正月には帰らないらしい。  いつもより少し静かな年の瀬がゆったりと流れていた。
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