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「失礼、します」
彼に聞こえる程度の小声で一応、相席の礼儀を済ませて、人一人分のスペースを空けて、彼から見て右側に腰を下ろした。
彼からの返事はない。
彼の足元には、すでに食べ終わったコンビニ弁当が、ビニール袋に雑に突っ込まれていた。
私は、コンビニ弁当の蓋をそっと開けた。こちらに全く興味がないのか、夢中で手元の本のページをめくり続ける彼を横目に、割り箸を割る。
一口食べようとしたその時だった。
「マジで。女子が、にんにくたっぷりの焼肉弁当かよ」
ぷっとこちらを揶揄うように笑った彼は、ようやくコチラを向いた。突然話しかけられた言葉が、そんな馬鹿にしたような言葉で、私は腹が立った。
「あなっ……」
あなたに関係ないでしょ、と言いたかった私は、思わず口をつぐんでいた。
長めの前髪から、綺麗な二重瞼がこちらを除いていたから。鼻は一本の筋のように真っ直ぐ通り、形の良い薄い唇が口角を上げていた。
(綺麗な顔……)
思わず、見惚れていた。
「……ジロジロ人の顔見んなよ、……だから女子は嫌なんだよ」
彼は、私の視線を、ジロリと睨みながら、言葉を吐き捨てた。
「な、何なのよ、ちょっと綺麗な顔してるからって、自惚れ過ぎでしょ!あなたなんて、タイプじゃないし!」
生まれつきこんな綺麗な顔して生まれた、自信満々の恵まれてるヤツに、私の気持ちなんて一生わからない。語気を強めて、言い返した私を、あっそ、と面倒臭そうに一瞥すると、彼は再び視線を下に落とした。
「やな感じ!」
聞こえる様に発した声は、彼に聞こえてるはずなのに、彼は表情一つ変えることも、答えることもなく、黙々と本に視線を流している。
「……何とかいいなさいよ」
「…………」
今度は完全無視だ。ほんと、やな感じ。
食欲をそそられて、買った焼肉弁当だったが、食欲どころか、腹が立って、私は、味わうことなく、あっという間に平らげる。
これじゃあ、やけ食いだ。平らげてやったと言った方が、あってるかもしれない。
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