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見慣れない紙袋から出てきたのは、さっき歩道橋から投げ捨てたビスクドールだった。
もげた手足に、汚れたドレス、顔は割れている。
なのに肌だけはバラ色で、小さな唇は紅く色づいている。
「誠也ニ 愛サレタイ。毎夜、愛サレタイノ」
目が覚めると、私はベッドの中だった。
グッショリ汗をかいた服が気持ち悪い。
シャワーを浴びようと起き上がり固まった。
「そうだ!ビスクドールは?」
昼間だろうか、明るい部屋に後押しされて玄関を覗くと、ビスクドールなど置かれていない。
「夢だった……嫌な夢……」
シャワーを浴びると、身体も頭もスッキリした。
昨日は確かに、ビスクドールを歩道橋から投げ捨てた。
あのガラス戸棚は空っぽのはずだ。
夕方、大学に行ってみよう。
部屋から聞こえる壊れた人形の泣き声には、耳を塞いで。
「アンティーク同好会」は大変な騒ぎになっていた。
総出で探しても見つからない。
国道脇に、バラバラになったビスクドールを見つけたのは誠也だった。
──誠也が見つけた。
この事実にさえ、嫉妬してしまう。
バラバラになっても、まだ誠也を求めるビスクドールが浅ましく感じる。
吐き気をこらえていると、勘違いしたみんなから慰められた。
「桃花は優しいから。大丈夫?見ないほうがいいよ?」
お生憎様、もっと粉々にすべきだったと後悔しているのにね。
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