10人が本棚に入れています
本棚に追加
レディドール
髪から雨の雫を滴らせ玄関を開けると、やっぱりソレはいた。
バラバラになった身体を起こしながら、私を見てニヤリと笑った。
「誠也ガ スキ。愛サレタイノ」
腹の底から笑いが込み上げてきた。
そんな姿で、誠也に愛されるとでも思っているのか?
誠也はもう、あの高慢な白いドレスのビスクドールに夢中だというのに。
「ねぇ、もう一度誠也に愛されたい?」
私は挑むように人形に問いかける。
「愛サレタイノ」
壊れたその顔が、どうしても自分と重なってしまう。
いつまで待てば愛してくれるの?
このまま相手にされないままなの?
誠也が人形しか愛さないなら……。
「……私と一緒にならない?そして一生誠也を離さないの」
ずっと美しく、ずっと飽きない、誠也を満たして離さない人形に。
「愛サレタイカラ 一緒ニナッテアゲル」
人形が私の腕の中におさまり、ゆっくりと目を閉じる。
足元から、炎が蛇のように巻き付いてきた。
ずぶ濡れだった身体から、1300℃の炎が一瞬で水分を奪っていく。
昔のビスクドールが二度焼きするのは、人間の肌に近い質感にする為だ。
さらに高温の炎が、残っていたワタシの部分を焼き尽くした。
絶叫は、人間としての最後の未練だ。
境界。
そんなものを越えるのは簡単だ。
最初のコメントを投稿しよう!