レディドール

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雨の日に、ここへ来るのが唯一の楽しみだ。 カノジョはまだ、僕のモノではない。 いいさ、すぐに手に入るカノジョなんてつまらない。 高嶺の花のように、焦らされるのもいい。 今日は、どんな表情を見せてくれるのだろう。 店内に入ると、いつもと様子が違った。 あちこち模様替えされている。 不安な気持ちでカノジョがいる棚に向かうと、そこには何もなかった。 「おじさん、ここにあったビスクドールは?売れてしまったとか?」 動揺から、声が裏返ってしまう。 「あぁ、君か。それがね……朝は確かにあったけど、見当たらなくてね……今、探している最中さ」 「僕も手伝います」 汗だくで探したけど、カノジョは見つからない。 おじさんは僕にコーヒーを渡しながら、疲れた顔で話してくれた。 アンティークショップの品物は、いわく付きが多いと。 失くなったと思えば、とんでもないところから出てきたり。 指輪なんかに多いそうだ。 アンティークドールは。 ドレスの色が変わっていたり、髪が伸びるなどは珍しくないらしい。 「しかし……いなくなったりは、今までなかったのになぁ」 「お気に入りだったんです。でもまだバイト代がたまらなくて……」 「君みたいな男前にしょっちゅう見つめられて、あの子も恥ずかしくて隠れたのかな?」 朗らかに笑う店主に、また来ますと挨拶して、僕は店を後にした。
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