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またカノジョが、僕の前から消えた。
力なく家に帰ると、玄関に箱が置いてあった。
「邪魔」
誰かのいたずらか、間違いで置かれたと思っていた僕は、箱に手をかけ息が止まった。
見えていたのはビスクドールが被るボンネットだ。
そっと蓋を開けてみる。
「こ……れは……」
今まで見たこともない精巧な顔立ちのビスクドール。
瞳は珍しいブラックアイで、肌は人間のようになめらか──しっとりとさえ感じる。
唇はグロスを塗ったように艷やかだ。
光沢のある黒いドレスに、深いブラウンの髪が流れてかかる。
ビスクドールらしい愛らしさはなく、大人の気品溢れる上質のドールだ。
──レディドールか。
震える指先でその唇をなぞると、ドールの纏う雰囲気が変わる。
淑女から娼婦ヘ。
カノジョをかき抱き部屋ヘ飛び込むと、もう我慢できなかった。
その唇を僕のモノにする。
自分の身体がとけてしまいそうだ。
──誠也。
──誠也、今日からワタシはあなただけのレディドール。
頭に響いた声は、何処かで聞いたような……。
でも、どうでもいい。
僕だけのカノジョ。
僕のレディドール。
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