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お開きの時間が遅くなり、終電に乗り遅れないよう桃花と夜の街を走る。
「もう、無理。走れないっ!」
しゃがみ込む桃花の腕を取り、再び歩き出す。
僕の腕にぶら下がるように体重を預けてくる桃花には、何も感じない。
こうして密着しても、上目遣いで見つめられても、桃花は僕の境界を越えられない。
「誠也……今日泊めてよ」
子供のように膝を抱え、甘い言葉を期待しているだろう桃花から目を逸らす。
「桃花……飲み過ぎだ」
腐れ縁なら腐れ縁らしくすればいいのに。
どう頑張っても、桃花に僕の境界は越えられない。
越えられるのはカノジョだけ。
越えていいのもカノジョだけ。
「送っていくよ。明日はアンティークショップだろ?」
「……鈍感。明日はランチ奢りなさいよね……」
都会の夜空も満更でもない。
ぼんやりと霞んで瞬く星が、今の桃花にはお似合いだ。
カノジョならば、さしずめ星のない漆黒の夜空だろう。
潔いくらいに暗渠な。
そこにカノジョだけが輝けばいい。
想像するだけで身体の芯が熱くなる。
帰る桃花の後ろ姿が、夜に浸食されている。
その背中を見送りながら、桃花も自分と同じ無色な日常なのかもしれないと苦笑いした。
明け方に激しい雨音を聞いた。
目が覚めた時には雨音は止み、カーテンを開けると分厚い雨雲が横たわっていた。
素早く仕度をし、待ち合わせ場所へと歩く。
桃花の指定した待ち合わせ場所は、人気のバーガー屋で、朝飯兼待ち合わせだろう。
店内もオープンテラスも満席で、なかなか見つけられない。
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