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ようやくテラス席の端っこで桃花を見つけた。
近づいても顔すら上げない。
「おはよう。随分探したよ……」
「もうっ!スマホ見てないでしょ。何度もメールしたのに〜」
「ごめん。何が食べたい?」
まわりの人は僕達を、カップルだと思っているのだろうか。
こんな僕らが?
カノジョとなら、まわりの世界も僕らの世界も、同じように包み込んでくれたはずだ。
「蒸し暑いね?さっさと買い物終わらせて、涼しいところでまったりしたいな」
「雨が降りそうだな……」
噛み合わない会話も、朝にしてはボリュームがあり過ぎるハンバーガーも、僕をどんどん無色にする。
店を出る頃には、軽い疲労感さえあった。
電車に乗っていても、バスを待っていても、桃花はハイテンションで「デートみたいだね!」と、はしゃいでいる。
「誠也の手、冷たくて気持ちいい」
無遠慮に握ってくる桃花の手をそのままに、アンティークショップを探す。
そのアンティークショップは、住宅街の外れにあり、僕らは少し迷ってしまった。
珍しくヒールを履いていた桃花が、足が痛いと愚痴りだしたのには参ったけど。
桃花を宥め店内に入ると、ひんやり冷たい空気にホッとする。
そして独特な匂いがした。
枯れた時間の匂いだ。
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