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私が割り込んでいくと、邪険に扱われるから腹が立つ。
「桃花もたまには、ビスクドールの手入れをしてあげてね?専用の布は引き出しに入っているから」
「副部長、手入れは僕がやりますから。桃花は昔から大雑把で、壊しそうだ」
そうやって笑っていられるのも、今のうちだけだ。
そう、私は大雑把ですから。
黒いドレスは汚れが目立たない。
ならば、切り裂いてやればいい。
ズタズタになったドレスの裾を、さらに手で引き裂いた。
これでもう手入れなど必要ない。
無惨な人形を最初に発見したのは、副部長の和香だった。
わざとらしく泣いている和香の背中を、部長が慰めるようにさすっていた。
そっと誠也を窺うと、破れたドレスの裾を持ち上げている。
その横顔から何の感情も読み取れず、思わず腕にしがみついた。
「誰がこんな酷い事……痛々しいね?」
白々しい言葉でも、涙と一緒なら効果はある。
誠也は何も言わない。
集まった部員達も、誰も言葉を発しない。
お通夜のように、悲しみだけが重く立ち籠めていた。
かなり笑える。
引き裂かれたドレスを纏う人形は、見るものを憂鬱にする。
今は黒いドレスは脱がされ、人形のカラダにはタオルがかけられている。
その姿は滑稽で、見るたびに吹き出しそうになるから困った。
黒いドレスで不気味に澄ましていた時よりも、今の方が愛嬌があるんじゃない?
みんなだってそう思ってるくせに。
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