8人が本棚に入れています
本棚に追加
教室に入ると、後方で男子がふざけあっているのが目に留まった。
「あれは…」
いわゆる、プロレスごっこだった。
男子たちに技をかけられて、悶えているのが、私を助けようとして標的にされた彼――愁斗くんだ。
「ギブ…!ギブってば!」
「おい愁斗、嘘だろ?まだまだ序の口だっつーの」
抵抗する愁斗くんに、ガタイのいい男子が技をかける。
首を脚で挟まれた愁斗くんの顔が、だんだん青ざめていく。
「ちょっと!」
声をかけるのは怖かった。
でも、止めなきゃ――という思いで、私は愁斗くんの元に駆け寄っていた。
「何だよ、川谷。こっちはプロレスごっこで遊んでんだよ、邪魔すんな」
「愁斗くんは、遊んでるって思ってる?」
「だからぁ…」
「アンタには聞いてない!私は愁斗くんに聞いてるの」
今まで口を開かなかった私が、早口でまくしたてたのに驚いたのか、いじめっ子たちが黙り込む。
「遊んでない。こんなの遊びじゃない」
愁斗くんが言った。
男子が舌打ちする音が聞こえた。
「川谷のくせに邪魔すんなよ」
「そっちだって、同級生のくせに偉そうにしないでよ」
恐怖を押し殺して反論した途端、男子のひとりが殴り掛かって来た。
咄嗟に、近くにあった誰かの体育館シューズが入ったケースを掴んで投げつける。
それが顔に命中して、彼は後ろ向きに転んだ。
最初のコメントを投稿しよう!