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◇◇◇
死神は、寄り添って屋上を去る男女を見送りながら、アンティーク調のライターをポケットにしまった。
そして、ポケットからコンビニで売られているライターを取り出し、タバコに火をつける。
「まさか、例外で戻って来るとは思いませんでしたが…」
タイムリープした人間は、戻る術がないため、原則として過去の世界で生き直すことしかできない。
ただし例外として、過去で他者の人生を大きく変え、未来が大きく変わった時にのみ、タイムリープは強制終了となってしまう。
彼女――小春がタイムリープして取った行動で、本来命を投げるはずだった愁斗の行動が変わり、未来を大きく変えたようだった。
「魂を刈り取るどころか、刈り取った後の魂をこの世に繋ぎ止めてしまうとは…」
死神は小さく笑った。
エネルギー源である魂を刈り取り損ねたうえに、損失まで出したのだ。何かしらの処分は免れられない。
だが、死神は笑っていた。
「死が訪れるまで、充実した人生を」
死神は呟き、姿を消した。
彼がいた場所には、“死神”という大きな文字と“カワタニ”と小さな文字が並んだ名刺が1枚、落ちていた。
完
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