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洗濯機をまわして、顔を洗い軽く身支度を整えると、ベッドに腰掛けていた飯塚君の前に立った。
「お待たせ」
飯塚君はどこか宙を眺めているような感じで
「うん」
と答えるのに、なぜか私を見ようとしない。
数分前、世界一幸せだったはずの私は、もう何かいけないことをしてしまったんだろうかと不安が生まれる。
「飯塚君、どうかした?」
洗濯物を一緒にされたのは、もしかしたら嫌だったのかもしれないと思いつき
「ごめんね、洗濯物一緒にするの、ほんとは嫌だった?」
と訊ねてみる。
すると、ハッと顔を上げた彼は、笑いながら首を振った。
「そうじゃないよ。真美に洗濯してもらうなんて、なんか、俺のものっていうか、奥さんになったみたいな気がして、そう思ったら妙に恥ずかしいっていうか、照れるっていうか」
ちらりとしか寄越されない視線は気恥ずかしさのせいらしい。
そんな可愛らしいことを思っていたなんて、と驚くとともに、いつかそうなれたらと願う自分に気がついた。
やっぱり世界一幸せだ、と確信し、一歩近づいて彼の頭を胸に引き寄せる。
彼の両腕が私の腰に回された。
「飯塚君のこと、拓哉君って呼んでもいいかな」
「うん。是非」
低く柔らかな声でそう返事をくれた彼の、腰を抱く力が、少しだけ強くなる。
「ちょっと、照れるね」
「うん」
私は彼の髪を、ゆっくりと撫でた。
やっぱり世界一幸せだと、その思いを噛み締めながら。
おしまい。
最後までお付き合い、ありがとうございました。
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