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 死ぬほど分かってた。  ある日突然、別れが訪れることも。  いつかそんな日が来たら、冷静に、淡々と、別れを告げるつもりだったのに。 「ごめんね。幸四郎の大好きな子どもを産んであげられない。私には無理なの」 「違う⋯⋯小夜さえいてくれたら、それでいいから。君がどこの誰でも構わない。僕はここにいる小夜だけを信じてる」  いけない。  視野がぼやけてきちゃった。  これじゃあ、前もって決めていた緊急用の逃走ルートまで辿り着けないじゃない。  ふいに引き寄せられて、幸四郎の胸に頬があたる。体温と鼓動の速さが伝わってくる。  今までこんなに強引に抱き締められたことがあっただろうか。強く、強く――。 「夢を見せてくれてありがとう。幸四郎」  でも、もう本当にこれで終わり。  無理やり身体を剥がして、一度も後ろを振り向かずに、駆け足で店を出た。 ――幸四郎と一緒にいるときの私は、暗い過去も、生まれた環境も、一切関係なかった。  幸四郎の瞳に映る、ただの私だった。  ずっと離さないと言ってくれたあの大きな愛しい手を、私の方から離したんだ。  行こう。  私自身も知らない場所へ。  狙撃手やバトラーでも、表も裏もない、私にしかできないことを探しに。
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