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―――予約した時間に16階のお店の前でね。あと、ジャケット忘れないでよ、幸四郎。
―――ドレスコードってやつでしょ。あのさ、肝心な事を忘れてるようだけど、あの有名な『奇跡の夕景』を小夜に見せたくて店を予約したのは、僕だからね。まぁ、キャンセル待ちで連絡が来たことの方が奇跡だけどさ。
付き合い始めて5回目の記念日。
僕たちは毎年必ず、記念日の5月9日には、時間を合わせて食事すると決めている。
たとえ、どちらかの仕事が立て込んでいたり、ケンカ中だったとしても。
もちろん外食でなくても、自宅でもいい。
時間がなくて、小夜の職場近くの公園で、コンビニおにぎり片手に祝ったこともある。
何年経っても出会った頃の気持ちを忘れないようにと、一年目の記念日に二人で決めた、僕たちの唯一のルールだった。
小夜は高級ホテルに勤務している。
今日はだいぶ奮発して、小夜が勤めるホテル内にある鉄板焼きレストランの個室を、彼女の終業時間に合わせて予約した。
A5ランクのブランド熟成肉が堪能できる店として、グルメ本の特集に頻繁に載るような、敷居の高い店。
それに加えて、天気が良ければ富士山まで望める夕景色は、「奇跡の夕景」と喩えられるほどの話題スポットだった。
そんなマジックアワーの時間に合わせて予約したのは、プロポーズのため。
昨日からソワソワと落ち着かなくて、予定よりも早く店に着いてしまった。
他に時間を潰すあてもないし、中で待たせてもらえないか訊いてみるか。
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