3/3
前へ
/14ページ
次へ
「メロンちゃん、ダメじゃない。あたしから離れたら迷子になっちゃうでしょ!」 「この子、メロンちゃんっていうんだ。毛がフワフワしていて可愛い子だね」 「そうよ。あたしの大切なお友だち。今日はこの子とあたしの5歳のお誕生日なの」 「それはおめでとう。二人とも」 「お兄さんありがとう。じゃあね、バイバイ」   女の子が小さく手を振ると、その後ろにいた若夫婦も柔和な笑みを浮かべて会釈した。  僕もつられるように軽く頭を下げて、通路の端でその様子を見ていた店員に駆け寄る。 「すみません。条件反射で、つい」 「はい?」 「あぁ、いや。僕、保育士なんです」  ふふ、と、店員は一瞬だけ表情を崩すと、すぐにホテルマンの顔に戻り、「こちらでございます」と、隣の個室に手のひらを向けた。  端から二番目の個室。  この場所は小夜が指定した。  そこからの景色が一番綺麗だから、と。  「お連れ様がお見えになりましたら、またお伺いいたします」と、深々と頭を下げる店員に、「どうも」と、ヒョコっと首だけを下げて、個室の中を恐る恐る覗いてみる。  黒と木目を基調としたシャレた部屋。  中央に置かれた鉄板付きのテーブルには、二人分の座席が用意されている。  奥は一面ガラス張りになっていて、闇に包まれる気配を纏った空と、様々なグレーの色彩で塗られたビルが一望できた。  まるで別世界だな。  小夜はここで働いてるんだよなぁ。  なんだか、自分だけがこの場に相応しくない人間のように思えた。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加